実験的で厳密な科学としての物理学
実験的科学
アインシュタイン:“真理に関するすべての知識は実験に始まり実験に終わる
厳密な科学:数学は自然の言語である。(ガリレオ,デカルト,アインシュタイン)
物理理論の二つのカテゴリー
・現象論的理論(法則,モデル)
・偉大な(Great)理論
両者の違い:
・発見方法の違い
・実験の役割
・数学の役割
・予測の正確さ
・妥当性の限界
現象論的法則の例
・フックの法則 F=-kx
・熱膨張の法則 L=L0(1+αΔT)
・オームの法則 I=V/R
現象論的法則の長所
・豊富なデータの集積,多くの実験結果
・単純な数学的公式,物質に依存したパラメーター
・予測力:きわめて限定されている
・妥当性の範囲は,当初得られたデータの範囲とほぼ重なる
教育方法への提案
・生徒はなるべく多くの実験を行うこと
・生徒は自らモデルを構築し,発達させることができる
・生徒が具体的に推論することは,教える際の障害にはならない
(体験する物理や,ステージ上で演示する物理の写真)
(マリー・キュリーが子供向けに行った科学教室の紹介)
偉大な理論
・ ユークリッド幾何学 紀元前4世紀
・ ニュートン力学 17世紀
・ マックスウェルの電気力学 1864年
・ アインシュタインの特殊相対性理論 1905年
・ アインシュタインの一般相対性理論 1916年
・ 非相対論的な量子力学 1926年
(偉大な物理学者の肖像…ニュートン,マックスウェル,ハイゼンベルグ)
「偉大な理論」はなぜ偉大なのか
・私たちは,自然が数学的であるということを信じている。
アインシュタインはこのように言った。「数学が,現実の対象にこんなにもうまく適用できるなんて,どうしてそんなことが可能なのだろうか?」
・「実験は数学的モデルの正しさを示唆するが,その数学的モデルは実験から演繹することはできない。(略)もちろん実験は,数学的モデルが物理学的に有用であることを保証する唯一の基準ではあるが,創造的原理は数学の中に存在する。」
(アインシュタイン)
・すばらしい予測力はその理論を偉大にする。
例:
ユークリッド幾何学
一般相対論
偉大な理論を教える際の注意点
・偉大な理論は難しい(ピアジェの認識論)
・生徒によって再発見されることはあり得ない。それは示されなければならない。
・実験は理論をきわめて正確に証明するが,直接的ではない。多くの場合,実験から理論へは長い道のりが必要である。
・問題を解くことは重要である。
・偉大な理論は全体として理解される。理論を自分のものとするためには,たくさんの概念を理解することが必要である。
・生徒にとっては,理論の妥当性に限界があることは受け入れがたい。生徒にとって,理論は「正しいか間違っているか」のいずれかである。
偉大な理論をいかにして教えないか
200年ジュネーブにおけるフィジックスオンステージ…クオークに関するパフォーマンス(写真)
偉大な理論を教えるのには
チョークと黒板でOK!
(これは単なる意見です。)
指導者とその弟子
・講義,セミナー,ワークショップ,テキスト
学校で教える場合の規則
(A.スタルシキエヴィッチ による)
・知識をアップデートしなければならない。
・教えられるテーマか否かを判断しなければならない。
・もし教えられるのなら,いかに教えるかを決めなくてはならない。
・もし教えられないのなら,そのテーマの中からどの部分を教えられるかを判断し,それをいかに教えるかを決めなくてはならない。
・間違った説明をしてはならない。前提となる仮定や適用限界についての説明なしに,法則を提示してはならない。
言うは易く,行うは難し
教育の例
・物体が静止している場合と動いている場合とで,力の作用が異なるという理解(アリストテレス派の考え方−この考え方はのちに運動量保存則を理解するうえでの妨げになる)
・相対論的な質量(エネルギー-運動量の4次元ベクトル,静止座標系でのみ正しいE=mc2)
誤った教え方(ポーランドの例)
・ニュートンの万有引力の法則(質点)
・重心(一様な重力場のときにのみ意味がある)
・「場」の概念
誤った概念:「場」は力がはたらく空間である。
正しい概念:「場」は力がはたらく空間に存在する。
まとめ
・学校で生徒に教えるべきことは何か,また生徒に教えることが可能なことは何か,このジレンマを解決するためには,科学者と教師とが深く議論をしなければならい。
・誤った教科書を訂正するためには,学校教師と科学者との共同作業が必要である。
・正しいステートメントは誤ったステートメントと容易に置き換えられる。生徒にとって,正しいステートメントは誤ったステートメントよりもやさしいことが多い。
・非常に難しい問題の例:確率論的な量子力学の説明,MKS単位